戦後日本と国家神道 Ⅰ

 

第4回:戦後の国家神道と宮中祭祀

原武史×島薗進

今回は「宮中祭祀と天皇崇敬」を論題にし、政治学者で近代の天皇について数々の重要な著作を世に問うて来られた原武史さんとともに考えていきたい。明治維新以降の国家体制が国体論と国家神道を基軸とし、神聖な天皇への崇敬を人々に促すことで国家統合を強め、対外的に攻撃的な姿勢を増幅して破滅的な戦争へ至ったとすれば、戦後の日本社会はその反省の上に立ち、日本国憲法に基づき平和と民主主義を目指しつつ歩みを進めてきたと考えられている。では、その戦後の体制において、天皇と国家神道はどのような関係にあるのだろう。戦後も宮中祭祀はほぼそのまま引き継がれ、昭和から平成、さらには令和になっても、それが続いている。むしろ宮中祭祀が強化された面もある。このことと国家神道や天皇崇敬の関係をどのように考えればよいのだろうか。

近代以降の「天皇と宮中祭祀」についても独自の精密な論考を蓄積している原武史さんからは、次のような内容の講義をいただく。

「宮中祭祀のほとんどは明治になって新たにつくられたものだ。明治天皇も大正天皇も祭祀に熱心ではなかった。昭和天皇は母親の貞明皇后との確執もあり、熱心になったが、60代後半以降、入江相政の助言にしたがって出る回数を減らしていった。一方、平成の天皇(現上皇)の宮中祭祀に対する熱心さは、昭和天皇をはるかに上回る。85歳で退位する直前までずっと続けたからだ。そればかりか2016年に発表された「象徴としてのお務めについての天皇陛下のお言葉」では、象徴天皇の務めの二大柱の一つとして宮中祭祀を挙げている。「つくられた伝統」であったはずの宮中祭祀が絶対化したのである。現天皇もこの点に関しては、平成の天皇を忠実に受け継いでいる。なぜ祭祀がここまで重視されるに至ったのか。前述の「お言葉」で平成の天皇が挙げた象徴天皇の務めのもう一つの柱である行幸や行幸啓との関係を中心に、この問題について考察してみたい。」

これを受けて、島薗からは「戦後の国家神道と天皇崇敬」についての見方を提示し、2人で討議を行い、理解を深めていきたい。

収録日:2023年8月19日(土)


原武史 Hara Takeshi

政治学者/放送大学教授、明治学院大学名誉教授。1962年東京都生。東京大学大学院博士課程中退。著書に『「民都」大阪対「帝都」東京』(サントリー学芸賞)、 『大正天皇』(毎日出版文化賞)、『滝山コミューン1974』(安全ノンフィクション賞)、『昭和天皇』(司馬遼太郎賞)、『皇后考』、『団地空間政治学』、『線』の思考』、『歴史のダイヤグラム』など。

島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者/東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、大正大学客員教授。1948年東京都生まれ。東京大学大学院博士課程・単位取得進学。年)、『日本人の死生観を読む』(朝日新聞出版、2012年)、『共に悲嘆を生きる』(朝日新聞出版、2019年)など。


概要

再生時間  2時間27分

価格    2,500円(税込)


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