島薗進ゼミ

 

水俣の悲嘆(全3回)

 

 水俣病の苦難に向き合い、犠牲者を悼み、患者や遺族の痛みからの回復と償いを求める運動は、1950年代から現代へと及んでいる。それは苦難をもたらした要因を明らかにし、その責任を問い、こうしたことが再び起こらぬように社会に訴える活動であるとともに、この悲劇によって生じた大いなる悲嘆を受け止め、表出し、分かち持つ(相互ケアをする)スピリチュアルな次元をもつ、集合行動群でもあった。共有される痛みを通して尊いものを思い起こし、世のあり方、人々の生き方を問い直す精神運動として、水俣の人々の悲嘆と思考と行動を捉え返してみたい。(島薗進)

 

第1回 深い悲しみを通して

水俣の運動を担うなかで、人々はどのように悲しみを深め、それを分かちあっていったかを考える。自らの悲しみを掘り下げていくことを通して、また、苦しみのなかにある人々との出会いを通じて、新たな生き方を見出していった人々の経験を捉え返していく。とりわけ「宝子」とよばれた胎児性水俣病の人々との出会いを通して、また、自らの親や他の家族の苦しみと死別の経験を通して人々が見出して行った精神性について考えていく。

第2回 新たな祈りの形成

水俣病の被害者の救済と補償を求める運動は、新たな祈りの形を生み出して行く。そこでは、不知火海沿岸地域で長く培われてきた民俗的な宗教文化が継承されながら、水俣病によって被った悲嘆からこそ見出された祈りの場と形がある。「乙女塚」や「もやい直し」や「本願の会」は、そのようにして生み出された新たな祈りの形を示しているが、そこには現代社会の病理への深い洞察がはらまれている。

 

第3回 アニミズムと悲嘆

『苦海浄土』の著者、石牟礼道子は早くから、水俣の悲嘆をスピリチュアルな次元をはらんだものと見ていた。そして、アニミズムといった語を手がかりに自らの生涯を振り返りながら、人々が体現している精神文化を表現しようとしてきた。それは、田上義春、杉本栄子、緒方正人らの精神性を尊ぶ人々との交流を通して深められていったものでもある。その表現世界から私たちは現代人にとって宗教的なものがもつ意義を学ぶことになる。


島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者/東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、大正大学客員教授。1948年生。東京大学大学院博士課程・単位取得退学。東京大学大学院人文社会系研究科・教授、上智大学大学院実践宗教学研究科・教授、上智大学グリーフケア研究所所長を経て、東京大学名誉教授、NPO法人東京自由大学学長、上智大学グリーフケア研究所・客員所員、大正大学・客員教授。専門は近代日本宗教史、宗教理論、死生学、生命倫理。著書:『宗教学の名誉30』(ちくま新書、2008年)『国家神道と日本人』(岩波書店、2010年)、『日本人の死生観を読む』(朝日新聞出版、2012年)、『ともに悲嘆を生きる』(朝日新聞出版、2019年)など。


概要

日程  第1回:2025年1月13日(月・祝)
        
14:00~16:00

    第2回:2024年2月1日(土)
        
14:00~16:00

    第3回:2024年3月29日(土)
        
14:00~16:00

【オンライン参加(見逃し配信あり)】
受講料(各回)

    一般:2000円

    会員:1500円

    学生:1000円

    学生会員:500円
(見逃し配信はオンライン参加のお申し込みをされた方全員に対し、講座終了後から数日内に、YouTubeの限定公開のリンクをお送りいたします)


お申し込み

お申込みの前に必ず受講規約をお読みください。