NPO法人東京自由大学主催シンポジウム

民主主義の閉塞を超える
望月衣塑子×宇野重規
×大澤真幸×上野千鶴子
司会:島薗進

シンポジウム趣旨(島薗進)

「民主主義をよりよきものに進めていく」という「あるべき社会」の方向性が、多くの人々に共有されていた時期があった。もっとも、冷戦時代には自由主義陣営と社会主義陣営という対立軸があった。「自由」か「平等(今の言い方では格差是正)」と力点の置き方が異なったが、どちらも民主主義という基盤は支持していた。冷戦時代は「自由民主党」が「親米」の立場で長期安定政権にあったが、米国にこそ民主主義のモデルがあると感じられていた。現代の資本主義の非人道性が批判されたり、攻撃的な米国の対外政策を批判されたりする場合でも、民主主義という前提は共有されていると考えられていた。以上は日本を念頭において述べているが、世界的にもある程度、通用することだったと思う。
ところが、冷戦体制崩壊後の世界では、民主主義の威信が崩れているようである。2,000年代以降に目立ってきた現象として、一つには新たに権威主義や専制主義の傾きをもつ国家が増えてきているように見える。公正な選挙によらずに権力をとった政治指導者が、長期に安定した政権を維持し、「成功した統治」とみられるようなことも増えている。また、選挙によって選ばれた政権が、国民の支持を盾にして、法と討議に基づく決定というプロセスを軽視したり、公開性や透明性を尊ばなかったりする例も目立つ。さらに、マイノリティへの抑圧を是認したり、対外的に攻撃的な政策を掲げる政治グループが人気を得るなどの事態も目立つようになっている。日本もこの種の現象が目立ってきてはいないか。
こうした事態を「民主主義の閉塞」という言葉で示してみよう。このシンポジウムでは、1)民主主義の閉塞についてその由来を考え、2)どのようにそれを超えていくかについてともに考えていきたい。そこで、この問題について、それぞれの場から考え、また行動されてきた4人の方々に、この2点についてお話をいただき、話し合いを進めていきたいと思います。

 


権力とメディア

安倍・菅政権が8年を超え続いた中で、メディアは、国民の知る権利を十分に確保できたか。事前に記者たちが、質問を官邸に投げたことは、権力との緊張関係を自ら壊し、政権による政治の私物化を加速させたのではないか。メディアと権力の問題について話します。

望月衣塑子 Motizuki isoko

新聞記者。中日新聞(東京新聞)に入社後、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑をスクープし、自民党と医療業界の利権構造を暴く。17年2月から「森友学園」と「加計(かけ)学園」を巡る問題を追及。20年から日本学術会議問題、21年からは入管問題やコロナ禍での医療、雇用問題なども取材している。


民主主義はなお信じられるか

民主主義への疑いが広がっているのは今が初めてではない。

民主主義はこれまでも批判され、危ぶまれ、危機に陥ったが、

それでも現代まで続いている。民主主義の歴史を振り返り、

現代の危機を乗り越える道筋を模索したい。

 

宇野重規 Uno shigeki

東京大学社会科学研究所教授。東京大学大学院法学政治学

研究科博士課程修了。博士(法学)。主な著作に『<私>時代の

デモクラシー』『民主主義のつくり方』『民主主義とは何か』

などがある。


民主主義と資本主義の離婚?

長い間、資本主義と民主主義とは車の両輪のようなものであって、一定程度民主化した国でなくては資本主義の健全な発展はありえないと考えられてきた。しかし、権威主義的資本主義(中国)の成功は、こうした常識を否定するものだ。資本主義が自動的に民主主義をもたらさないとき、われわれは何をなすべきか? この疑問は、民主主義のポテンシャル(潜在的可能性)についての再考をも迫る。

大澤真幸  Osawa Masachi

社会学者。千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。思想誌「THINKING『O』」主宰。主な著書に、『文明の内なる衝突』『ナショナリズムの由来』、『〈世界史〉の哲学』、『日本史のなぞ:なぜこの国で一度だけ革命が成功したのか』など。


民主主義はツール、学んで身につける

民主主義は今のところ、最善ではないが、代わりになるもののない統治の方法である。だがあくまで意思決定のツールにすぎない。だとしたらツールは学んで身に付けなければならない。18歳選挙権が実施されたが、主権者教育、政治教育は適切になされているだろうか。成人の市民教育は?その地道な努力無くして民主主義はない。

上野千鶴子 Ueno chizuko

社会学者・東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。『上野千鶴子の選憲論』(集英社新書)、『当事者主権』(岩波新書)、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)、『女の子はどう生きるか 教えて!上野先生』岩波新書など著書多数。(菅野勝男撮影)


島薗進 Shimazono Susumu

宗教学者・東京大学名誉教授。現在、上智大学大学院実践宗教学研究科研究科長・特任教授、同グリーフケア研究所所長、同モニュメンタニポニカ所長、NPO法人東京自由大学学長。主な著書に、『国家神道と日本人』『愛国と信仰の構造』『近代天皇論』など。


概要

日程  2021年12月18日(土)

時間  13:30~17:00

受講料 一般:3500円

      会員:3000円

    学生:2500円

    学生会員:2000円
※オンライン開催のみとなります。
【見逃し配信あり】
見逃し配信はオンライン参加のお申し込みをされた方全員に対し、講座終了後から数日内に、YouTubeの限定公開のリンクをお送りします。

※12月19日(日)16:55まで下記リンク先で見逃し配信の視聴申し込みを受付中です